PRP・ヒアルロン酸・ステロイドの関節注射、どれを選ぶ?三つの作用機序と適応

外来でいちばんよく聞かれるのは、この一言です。「先生、友人が膝にヒアルロン酸を打って良くなったのですが、私もそれでいいですか」
これはまっすぐ答えにくい質問です。PRP・ヒアルロン酸・ステロイドの三つは、関節のなかで同じ仕事をしているわけではありません。三つを並べて比べる共通のものさしが、そもそも存在しないのです。ご友人にヒアルロン酸が効いたのは、その方の問題がたまたまヒアルロン酸の守備範囲にあったから、という可能性が高いと思います。
ですので、まずそれぞれが何をしているのかからお話しします。
三つの注射がそれぞれ担当していること
ステロイド:炎症を抑える
ステロイド注射の働きは、局所の炎症反応を抑えることです。関節が腫れていて、触ると熱く、少し動かすだけで痛む。そうした急性の炎症状態には、すばやく対応できます。
ただし対応しているのは炎症そのものです。軟骨のすり減り、関節液の質、周囲の軟部組織の状態は変わりません。炎症が収まっても、その下にある問題はそのまま残っています。
ヒアルロン酸:潤滑とクッションを補う
ヒアルロン酸(Hyaluronic Acid、関節液や軟骨にもともと含まれる多糖分子)が関節で担っているのは、潤滑と衝撃の吸収です。変性した関節では関節液の粘弾性が落ちてきます。こすれる感じ、引っかかる感じは、そこから来ています。
ヒアルロン酸を注射するのは、このクッションの層を補い直すためです。狙いは機械的な摩擦による不快感で、「動かした瞬間に痛い」「階段がとくにつらい」といった訴えには、臨床でよく助けになります。
PRP:組織修復のシグナルを送る
PRP(Platelet-Rich Plasma、多血小板血漿)は、自分の血液を遠心分離して血小板濃度の高い層を戻す治療です。血小板から放出される成長因子が、組織修復のシグナル調節に関わります。
目的はその場の痛み止めではなく、関節局所の修復環境のほうにあります。ですからテンポが前の二つとまったく違います。それは次の項でお話しします。
| 注射の種類 | 主な作用 | 向いている問題 | 構造への影響 |
|---|---|---|---|
| ステロイド | 局所の炎症を抑える | 急性の腫れ、炎症が明らか | 構造は変えない |
| ヒアルロン酸 | 潤滑とクッションを補う | 摩擦感、動作時の不快感 | 構造は変えない |
| PRP | 修復シグナルを調節する | 組織の状態そのものに働きかけたい | 修復環境が目標 |
効果はどれくらいで出て、どれくらい持つか
三つの違いがいちばんはっきり出るのがここです。
ステロイドはたいてい最も速いです。打ってから短い時間で違いを感じられます。急性期に使い勝手がよいのはそのためです。代わりに持続する期間は比較的短く、繰り返し打つことには別の懸念があります。
ヒアルロン酸はもう少しゆっくりです。鎮痛薬ではなく、関節の力学的な環境を整え直すものなので、感じ方は徐々に、なだらかに出てくることが多いです。
PRP がいちばん遅いです。頼っているのは自分の体の修復反応で、その反応が進むには時間がかかります。臨床では複数回に分けて間隔をとる計画が多く、打った当日に何か感じることを期待するものではありません。
重要なポイント: 効果が速いことと、効果が良いことは別の話です。ステロイドは最も速いですが、痛みを生んでいる構造の問題には触れていません。PRP は最も遅く、感じ方にも個人差があります。「何日で実感できるか」を判断基準にすると、方向がずれます。
変性の段階によって、組み合わせの考え方が変わる
まず自分がだいたいどのあたりにいるかを知っておくと話が進みます。詳しくは膝関節の変性の段階にまとめてあります。
早期は軟骨がまだ残っていて、症状は活動後の不快感やときどきの腫れが中心です。この段階が選択肢の幅がいちばん広く、PRP が働きかけたい修復環境もまだ残っています。
中期になると摩耗がはっきりし、症状も規則的になります。ヒアルロン酸が摩擦を、PRP が組織の状態を担当するという役割分担が明確で、併用の相談がいちばん多いのもこの段階です。
やや進行した段階は事情が違います。構造的な破壊がはっきりし、関節裂隙も狭くなると、注射でできることは少なくなります。はっきり言えば、「一回打てば十年前の膝に戻る」という期待を持ったまま治療に入っていただくことはしません。この段階での注射は症状のマネジメント寄りの位置づけで、整形外科と一緒に他の方向も検討します。
正直に言うと、すべての関節痛が注射に向くわけではありませんし、条件も人によって違います。どんな場合に再生治療の方向で評価する価値があり、どんな場合に向かないのかは、こちらの記事に整理してあります。
ステロイドが長期の方針に向かない理由
ステロイドは急性期には良い道具です。問題は「痛くなるたびに打つ」という使い方のほうにあります。
繰り返し打つことは関節局所の組織に負担をかけます。臨床で頻度と間隔を意図的に管理しているのはそのためです。向いているのは短期的な使い方で、炎症を抑えて他の処置のための時間を稼ぐこと。リハビリを進められるようにする、どうしても外せない予定を乗り切る、といった場面です。
ある関節がステロイドを打ち続けないと機能を保てないのであれば、見直すべきは治療戦略のほうで、次の一本ではありません。
併用はできるのか、順番に意味はあるのか
PRP とヒアルロン酸の併用は、外来でよく聞かれる組み合わせです。作用する層が違うので理屈のうえでは補い合い、実際にそう組んでいる方も少なくありません。詳しくはPRP とヒアルロン酸の併用にあります。PRP 自体のエビデンス面はこちらの記事にまとめました。
あまり触れられないのが順番のほうです。ステロイドを打ったばかりの関節に、すぐ PRP を予定することはしません。ステロイドが抑えているのは、まさに PRP が呼び起こしたい種類の反応だからです。PRP を考えているなら、ステロイドを打つ前に伝えていただければ、時期を組みやすくなります。
外来でまず伺う三つのこと
順番はだいたいこうなります。
一つめ。関節はいま炎症を起こしているか。腫れ、熱感、押したときの痛み。まずそこを片づけないと、あとの議論が意味を持ちません。
二つめ。目標は何か。ある予定を短期的に乗り切りたいのか、長期的な状態に取り組みたいのかで、選択は変わります。
三つめ。変性の程度と組織の条件がどの選択肢を許すか。これは評価が必要な項目で、ネット上で比較して決められるものではありません。
痛みの出どころが関節周囲の腱、靭帯、筋膜であれば、関節内注射の三つはいずれも答えになりません。評価を先に置く理由のひとつがこれです。
正確に入るかどうかも変数になる
同じ一本でも、関節腔に入るのと、その脇の軟部組織に入るのとでは結果が違います。膝はまだ触れて分かるほうですが、肩や股関節はそれほど直感的ではありません。
当院が関節注射で超音波ガイドを使うのは、皮下腫瘍を扱うときと同じ理由です。見えてはじめて安全に扱えるからです。針先がどこにあるのか、薬液が入るべき腔に入ったのか。画像下では見えます。これで不適応の治療が適応になるわけではありませんが、適応のある治療から変数をひとつ減らせます。
重要なポイント: 三つの注射に固定された優劣の順番はありません。違いは、いま何をいちばん解決したいかにあります。効果には個人の組織反応の差があり、同じ方針でも人によって感じ方は変わります。方針を評価のあとで決めるのはそのためです。
ご自分の状況にどれが合うかを相談したい方は、評価のご予約をどうぞ。最近のレントゲンや検査結果をお持ちいただくと、診察がより効率的に進みます。ほかの再生医療関連のサービスもこちらからご覧いただけます。
よくある質問
PRP・ヒアルロン酸・ステロイドは一緒に打てますか?
ヒアルロン酸と PRP の併用は臨床でよくある組み合わせで、作用する層が違います。ステロイドは通常 PRP と同じ時期には組みません。抑えている反応が、まさに PRP が呼び起こしたい反応だからで、時期を離す必要があります。実際の組み方は関節の状態によります。
ステロイドを打ったことがありますが、PRP もできますか?
できますが、時期の調整が必要です。ステロイドの直後に PRP を続けることはしません。PRP を考えているなら、ステロイドを打つ前に医師へ伝えていただくほうが、全体の計画を立てやすくなります。
ヒアルロン酸で変化がなかったのですが、PRP なら効きますか?
とは限りません。ヒアルロン酸が効かないときは、主な問題が潤滑ではなかったという意味のこともあります。炎症かもしれませんし、関節の外の構造が関わっているかもしれません。注射を替える前に、診断をもう一度確認する価値があります。
PRP は何回必要ですか?
全員に当てはまる回数はありません。多くは複数回に分けて間隔をとり、実際の回数は関節の状態、変性の程度、治療への反応に合わせて調整します。効果には個人の組織反応の差があります。
膝以外の関節にも打てますか?
肩、股関節、足関節にも注射の応用があります。違いは解剖学的な深さで、深い関節ほど位置の確認を画像ガイドに頼ります。適応かどうかは、やはり個々の状況によります。
本記事は劉達儒 医師によるもので、一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診療評価に代わるものではありません。効果には個人の組織反応の差があります。専門医とご相談ください。
専門分野
資格・経歴
- 高雄醫學大學醫學系
- 高雄長庚醫院皮膚科專任主治醫師
- 高雄長庚醫院美容中心專任主治醫師
- 廈門長庚醫院皮膚科兼任主治醫師
- 廈門長庚醫院美容中心兼任主治醫師
「すべての手術で、極小の切開と精密な技術で、患者さんに理想的な結果をもたらすよう努めています。低侵襲手術は技術だけでなく、患者さんへの敬意と約束です。」
